当院手術室では9名のスタッフがロボット支援手術、術中誘発電位モニタリング、スコープオペレーター、人工心肺業務等をローテーションで担当。プリセプター制度は採用せず、経験2年以上のスタッフが日替わりで新人指導を実施。教育はOJT方式で行い、1年目では手術機器の準備・操作・トラブル対応を習得する。トラブル対応では年間約300事例の対応記録があるが、全てを把握するのは困難で、結局先輩への相談が最も効率的な解決策となっている。今後の改善策として、発生頻度の高い事例や対応が簡単なものを分析・マニュアル化し、新人教育の効率化を図ることを提案している。
当院の手術室業務は、清潔野介助(器械出し)、眼科外回り、Davinciロボット手術外回り、脊椎ロボットCirqのセッティング、自己血回収装置の操作、医療機器点検・管理、機器トラブル対応、術中ラウンドなど多岐にわたる。器械出し教育においては、マニュアルを用いた指導者からのレクチャー後、2〜3回の補助を経て独り立ちする仕組みだが、多くの診療科・術式をマスターするには長期間の教育が必要。臨床工学技士は看護師との協力が不可欠で、医師からの需要も高まっており、教育の質向上とスムーズな教育体制の構築が課題となっている。
2019年からのタスク・シフト/シェアの議論を受け、臨床工学技士(CE)の業務範囲が拡大している。当院では2010年から手術室看護師のマンパワー不足解消のため、CEによる清潔野補助業務を開始し、2022年からはスコープオペレータ業務も実施している。ただし、スタッフ数は増えていない中で業務拡大を進めており、新棟建設に伴う特定集中治療室管理料取得を見据えた体制変更も検討中。CEに求められる業務はスペシャリストとしての専門性が高いが、スペシャリストだけでは人材不足となる場面も生じる。いかにスペシャリストでありながらジェネラリストでもある技士を育成できるか、教育システムの構築について考察する。
改正臨床工学技士法施行以降、スコープオペレーターや清潔補助業務など手術室への介入が増加している。これはCEが医師の時間外労働削減や看護師不足に貢献できる一方、行き過ぎた業務拡大は疲弊や若手の将来不安、担当者依存によるリスク増大などの課題を生む可能性がある。医学的知識を持ってタスクシフト/シェアに貢献することは重要だが、個人の承認欲求が強すぎるとCEとしての本質を見失うこともある。業務の可視化と標準化を基礎に、高いモチベーションを持ち、他職種とは異なる視点で手術の安全に貢献することが求められる。今回、様々な年代のスタッフと意見交換を行い、今後の教育に活かしたい。
2010年の呼吸ケアチーム加算新設以降、多くの施設でRSTが活動しているが、その具体的活動は各施設が独自に検討・運営している。当院では、CEが病棟の呼吸器装着患者情報を麻酔科医師に報告し、離脱可能性評価後に対象患者を選定している。ラウンドでは医師との呼吸器設定検討、患者呼吸との同調評価、安全面の管理を担当。また月1回のRST会議では人工呼吸器管理状況、マニュアル、教育について議論し、特に呼吸器管理教育に注力している。RSTの多職種協力により、呼吸管理全般を総合的に検討できることが大きなメリットであり、CEは技術的助言を通じて安全性向上に貢献している。
当院は循環器専門病院で、形式上設置されていたRSTが実質的に活動停止状態だった。集中治療医不在のオープンICU体制であることから、本格的なRST機能化に取り組んだ。週1回の定期ラウンドを多職種チームで実施する計画だったが、医師の時間調整困難から他施設見学を通じて改善策を講じた。ラウンド日時の固定化と標準化チェックシートを作成し、医師不在でもメディカルスタッフのみでラウンド可能な体制を構築。ラウンド結果は臨床工学技士が共有・フィードバックし、教育的介入も実施。取り組み後、呼吸器管理体制が改善し、多職種連携効果が顕在化。今後はSAT/SBTのシステム化で人工呼吸器離脱タイミングの最適化を目指す。
当院のRSTは臨床工学技士をはじめ、麻酔科医・歯科医師・看護師・薬剤師・理学療法士・医事課の7部署で構成され、様々な活動を展開している。臨床工学技士は主に以下の役割を担っている:①人工呼吸器点検を通じた患者把握とRST回診対象のピックアップ、回診時の設定・機器に関する検討・提案、②新規医療材料の情報・サンプル収集と共有、採用決定後の管理、変更点・注意点の院内共有、③定期的なRST勉強会の開催と院内ニュースへの掲載、④年1回の体験型学習会における臨床工学技士ブースの担当。これらの活動を通じて呼吸管理の質向上に貢献している。
当院のRSTは2006年に発足し、「呼吸に関する医療業務の安全確保と患者の安心保障」を目的に、週1回の人工呼吸器患者の回診と月1回の会議、年間を通した勉強会を継続している。当初から2名のCEが参加し、現在は3名が在籍。同時期に臨床工学技術課の名称変更と当直業務開始があり、当直業務の主目的は人工呼吸器稼働中の安全管理と不測の対応だった。この年からCEは東海RST協力会などの外部組織にも参加し始め、当院の「呼吸療法元年」となった。CEとRSTは相互補完関係にあり、呼吸療法関連の機材選定や規則策定もRSTの支援で進行する。「求められる臨床工学技士」の達成にRSTはなくてはならない存在である。
医師の働き方改革に伴い、当院では2023年4月より心臓カテーテル検査とアブレーション治療において、CEと診療放射線技士が連携し、清潔物品の水通しと清潔野での手技補助に介入開始。メリットとして医師の物理的拘束時間の軽減や技術力向上が挙げられる一方、医師の精神的負担増加、若手医師の育成への影響、クオリティ維持などの懸念も存在。実際に始めたところ、CE人員不足による負担増大、他職種の負担増加、医師とのコミュニケーション困難、清潔野への恐怖心、専門知識の必要性などの課題が浮上し、介入できる症例数の制限や人材教育の停滞が見られた。これらの課題克服には病院体制の整備、教育体制の見直し、多職種協力が必要だが、医師から「朝回診に行けるようになった」等の声もあり、やりがいを感じつつ持続可能なタスクシフトを目指している。
不整脈診療において、医療の高度化と超高齢社会進展により高度医療技術の需要が高まっている。法令改正によりCEの活躍の場が広がり、植込み型デバイス管理、カテーテルアブレーションにおけるEPS解析、3Dマッピング装置操作、清潔操作業務などの役割を担うことが期待されている。理想的には、医師や看護師と連携しながらチーム医療の中核を担い、医師の負担軽減や診療の迅速化、患者安全性向上に貢献すべきである。しかし現実には、教育・研修体制不足、技術レベルのばらつき、医師との信頼関係やコミュニケーション不足などの課題が存在する。今後、効果的なタスクシフト実現には、標準化された教育プログラムの確立、法的・制度的整備、多職種連携強化が不可欠である。
医師の人手不足や労働時間長期化改善、医療デバイスの多様化に対応しつつ医療安全を担保するため、医師・看護師からCEの血管内治療への参入依頼があった。2022年度より4名体制のAGチームを結成、血管内治療の外回り業務やアブレーション治療の機器配線準備・治療介助を開始。2023年度には6名体制の部門に格上げし、循環器内科の清潔介助開始、2024年度からは脳神経外科も担当するようになった。物品準備・片付け、カテーテル保持だけでなく、医師からの強い要望でインデフレータ操作も実施している。ABL業務では配線接続、物品準備、スティムレータ操作、焼灼通電、ラボ操作を担当。課題として新規業務経験不足での教育体制確立やタスクシフト対応可否判断が挙げられるが、CEの業務拡大や地位向上のチャンスと捉え、各施設の取り組みや教育体制について議論し、全体でのステップアップを目指したい。
心臓カテーテル検査・治療は日々進歩し、業務内容が多岐にわたることからメディカルスタッフの参画が求められている。当院では2008年からCEが心臓カテーテル業務に参入し、現在は外回り業務、治療記録作成、清潔野セカンド業務、治療デバイス準備、血管内イメージング操作などを担当。課題として最も大きいのは人員不足であり、他業務との人員調整に難渋し、本来CEが行うべき業務を医師に依頼することも珍しくない状況。この状況で新人教育に十分な時間を割けていないのが現実である。新人育成の問題点として、育成校での心臓カテーテル分野における教育プログラム不足も挙げられ、基礎知識習得から始める必要があり、習得速度は個人差が大きい。大学病院という特性上、限られた期間で様々な業務習得を目指す環境は新人に大きなストレスとなるため、早急な教育体制の構築が必要。
「医師の働き方改革」の一環として、当院でも2022年6月より臨床工学技士(CE)によるCAG・PCI・ABLの清潔助手を導入し、医師の当直明け確保や時間外業務削減を目指した。また、臨床検査室との室間連携によりペースメーカー関連業務の移管にも着手した。実際に業務開始する前に、循環器内科の要望範囲や習熟レベル、夜間や緊急対応等のヒアリングを重ね、スタッフ教育期間や対応日のスケジューリングを行った。業務開始後は医師主導のOJTで研修し、3ヶ月程度で2名のスタッフが対応可能となり、その後はマニュアル整備や人員育成を進め、現在は9名まで増員。循環器内科対応が軌道に乗った後、臨床検査室からのペースメーカー関連業務移管要望にも着手し、現在は2名が対応。循環器内科医師が主導・主体性をもって指導にあたった結果、CE対応幅が増え、当直明け医師の残業や労力が減少した。
電源損失が生死にかかわる在宅人工呼吸患者は、避難先での医療的支援が困難なため、自宅避難を前提とした対策にとどまっている。当院では敷地内にある看護学校を災害時活用し、在宅人工呼吸器装着患者の1.5次福祉避難所として整備、そのリソースを地域内(3市2町)で共有することで在宅人工呼吸に関する地域/連携BCPの根幹とする取り組みを進めている。看護学校を流用した災害訓練の実施と関係者を交えたワークショップを開催した結果、保健所、自治体、地域内在宅医療関係者との接点が増え、「災害時に必要な情報」の知見を得られた。今後は看護学校災害時体制の構築、看護学校の1.5次避難所化、個別避難計画・診療情報提供体制の確立などの課題に取り組む。人工呼吸療法に精通する臨床工学技士は地域内の在宅医療関係者と行政間の橋渡し役となり、地域/連携BCP構築に貢献できる
知多半島では南海トラフ巨大地震の被害を最小限にするため、災害拠点病院・地域医療機関・市町が連携して対策に取り組んでいる。その活動として、①透析施設18施設による「透析連携会議」が2012年から40回以上開催され、参加施設はLINEでの情報共有と空床状況把握を行っている。②「知多半島医療圏災害連携会議」を年6回開催、災害拠点病院主催の訓練を年3回実施。2024年度は公立西知多総合病院が災害研修とEMIS入力訓練を行い、18医療施設・11行政機関から72名が参加。③公立西知多総合病院を中心とした「地域災害医療研修」を年1回開催し、10医療施設・5行政機関から35名が参加。これらの取り組みは長年継続され参加者の危機意識も高く、EMIS入力などに成果が出ている。今後の課題は初参加者への対応や研修内容のレベル向上である。
東三河地域は南海トラフ地震発生時に南部沿岸部では津波被害、北部では崖崩れや道路寸断による孤立が懸念され、医療機関が南部に集中している中、北部での医療継続体制確保が課題。2012年に「東三河透析研究会」を設立し、災害時の透析医療継続体制構築を目指している。医療関係者、メーカー、代理店が連携し「顔の見える関係」を築きながら、情報共有強化、危機管理体制確立、情報ネットワーク構築に取り組み、定期的な訓練やワークショップで実践的対応力向上を図っている。課題として、各施設の優先事項や方針の違いによるネットワーク統一化の難しさ、情報伝達ツールの多様化対応、医療資源の適切配置、迅速な情報共有、指揮系統の明確化などがある。災害対策には迅速な情報共有を基盤とした医療継続が不可欠で、地域内協力による持続可能な医療提供体制の構築を目指していく。
南海トラフ大地震の30年以内発生確率が80%程度と発表されている中、透析医療に必要な水と電力の確保は災害時に極めて困難となるため、行政や他施設との連携、迅速かつ適切な行動で医療継続が必要。岡崎市・幸田町では自治体との連携として年1回の保健所・消防・市役所などとの会議開催、災害時の連携内容や行動確認、マニュアル作成を実施。施設間連携では月1回のビジネストランシーバーを使用した情報伝達訓練、法人内には災害対策委員会を設置し月1回会議を開催している。課題として、現状では臨床工学技士が主体となっており、他職種の災害対策理解や対応レベルを高める必要がある。地域での自治体や施設間連携は平素から積極的なコミュニケーションによる信頼関係が構築されており、災害時の情報共有、施設間共助、自治体による公助が迅速かつ円滑に遂行できると考えられる。
愛知県透析医会は災害対策として県内地域をブロック分けした地域医療機関連絡網を構築。以前からの電話・FAX・Eメールに加え、ビジネストランシーバーを使ったブロックごとの情報伝達訓練により、近隣施設間の連携強化を進めている。名古屋南西ブロック内の透析施設間で臨床工学技士(技士)による関係構築に取り組み、①災害対策担当技士連絡網の作成、②各施設の災害対策設備等の情報共有、③施設の枠を越えた「顔が見える会議」の定期開催を実施。その結果、技士が在籍する16施設の連絡網が構築でき、各施設に窓口を設置することで患者数や設備状況などの円滑な情報共有が可能になった。半年ごとの定期会議開催により災害対策担当技士の関係性が向上し、この取り組みは大規模災害発生時の透析医療継続活動に有用と考える。