Best Presentation Award(BPA)①
片岡 直人(葵セントラル病院)
薗田 誠(日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院)
セッション概要
透析医療の現場に直結する先進的な取り組みを紹介。節水性能に優れたROエレメントの活用、ローカルLLMによる業務効率化、透析支援システムの連携強化、透析装置を用いた簡便なアクセス流量推定法など、日々の業務を支える革新的な内容が集まるセッションです。
AW-1: 東レ・メディカル社製 ROエレメントTMG-MSの節水性能評価 (奥田 通典)
今池腎クリニックの奥田氏らは、東レ・メディカル社製RO装置のエレメントをSUL-GからTMG-MSへ変更し、その節水効果を評価しました。装置回収率を67%から80%へ、さらに85%へ段階的に上げて検証した結果、透析回数が8.9%増加したにもかかわらず、水道使用量は80%設定で約17.5%、85%設定でさらに約4.9%削減されました。この間、水質パラメータに大きな変化はなく、同等の水質を維持できています。TMG-MSは化学汚染物質の除去性能と超低圧透水性能の向上により、水質を維持しながら高い装置回収率を実現しています。
AW-2: ローカルLLMによる透析業務効率化の検討 (後藤 崇文)
新生会第一病院の後藤氏らは、ローカル環境で動作する大規模言語モデル(LLM)を用いて透析業務の効率化を検討しました。クラウドベースのLLMではデータセキュリティやプライバシー保護の問題がありますが、ローカルLLMはデータを外部に送信せずに運用できる利点があります。研究では、1フロア25名分の透析記録を要約する際の所要時間を、ローカルLLMシステム導入前後で比較しました。手動要約では平均17.1分を要していましたが、LLMを活用した要約では確認と修正を含めても平均5分に短縮され、透析記録要約に要する時間を70.8%削減、年間62.9時間の効率化が期待できる結果となりました。
AW-3: 透析支援システムの更新を経験して (廣浦 徹郎)
高浜豊田病院の廣浦氏らは、2025年1月に透析支援システムを東レ社製Miracle DIMCS UXから日機装社製Future Net Web⁺へ更新した経験を報告しました。同じ医療法人内の2施設で同時に更新し連携を行いました。更新の結果、共通システムによる円滑な患者のやり取りが可能となり、入院透析時にも恩恵がありました。透析膜や薬剤のマスタは共通化され、新規採用時の登録を施設毎に行う必要がなくなりました。一方、メーカー不一致により通信規格が変更となり、送受信できるデータに制限が生じました。
AW-4: 日機装社製透析監視装置の再循環率測定を用いたアクセス流量算出式の導出 (小柴 大弥)
東海クリニックの小柴氏らは、人工血管内シャント(AVG)のモニタリングにおいて、専用機器や回路を使わない簡便な方法を検討しました。日機装社製透析監視装置のVA再循環率測定機能を用いて、アクセス流量(QA)を推測できるか研究を行いました。上肢AVGを有する透析患者11名を対象に、Transonic Systems社製HD02でQAを測定すると同時に、透析装置で逆接続時の再循環率(濃縮法・希釈法)を測定しました。結果、透析装置再循環率はHD02によるQAと強い負の相関を示し、導出した算出式から計算したQAはHD02によるQAと有意差がありませんでした。
AW-5: 透析用監視装置のナースコール不鳴動事例への対策と今後の課題(衣川 暁子)
刈谷豊田東病院の衣川氏は、透析用監視装置のナースコール不鳴動事例への対策と課題について報告しました。透析室スタッフが各フロアでケアーモニターのナースコールが鳴らない事例を経験し、その対応を検討しました。SHELLモデルを用いて分析を実施し、ナースコールの鳴動確認が十分に行われていなかった点、スタッフ間の連携不足、ケアーモニター確認手順の標準化が不十分だった点などが明らかになりました。改善策として、透析記録表にナースコール確認欄を設け、透析前に必ず確認することを導入しました。
血液浄化・機器管理・その他
中村 智明(日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院)
セッション概要
血液浄化センターにおける運動療法の取り組み、AED機器管理における遠隔監視システムの導入経験と今後の課題、携帯式手指消毒剤の使用状況調査と意識改善の効果など、現場に即した課題とその解決策が多角的に報告される、安全性・効率性・感染対策を支える実践知に富んだセッションです。
O-1: 血液浄化センターにおける運動療法の取り組み(服部 純奈)
豊田厚生病院の服部氏らは、慢性腎臓病(CKD)患者に対する腎リハビリテーション(RR)の一環として、2022年11月から透析時運動療法の導入経験を報告しました。多職種連携チームにより、対象患者10名に対してSPPB(Short Physical Performance Battery)で3か月ごとに運動機能を評価しました。透析中の運動は、上下肢のレジスタンストレーニングから開始し、エルゴメーターを用いた有酸素運動を追加しました。結果として、SPPB点数の維持・向上がみられ、特に下肢筋力の向上が認められました。
O-2: AED機器管理における遠隔監視システムの導入経験と今後の課題(河島 遼太郎)
名古屋大学医学部附属病院の河島氏らは、AED機器管理における遠隔監視システムの導入経験と課題について報告しました。2020年の除細動器・AEDの機器更新に伴いAEDが14台増加し、合計36台となりました。日本光電工業のAED遠隔監視システム「AED Linkage®」を導入し、AED本体と保管されているリモート監視端末からLTE回線を介してメーカーのサーバーにデータが送信され、CEはPC上で稼働状態を確認できるようになりました。導入により業務負荷を増大させずに管理運用の簡素化に成功しましたが、サーバー障害発生時の対応策が未確立という課題が残っています。
O-3: 携帯式手指消毒剤による各業務における使用量と所持率の調査ならびに考察(青山 遥稀)
岡崎市民病院の青山氏らは、臨床工学技士の携帯式手指消毒剤の使用状況を調査した研究を報告しました。医療関連感染(HCAI)予防の中核となる手指衛生の実態把握を目的に、臨床工学技士16名を対象に2024年7月から12月の間、各部署での使用量と所持率を調査しました。手指衛生は、WHOの「手指衛生の5つのタイミング」に手袋の着脱時を加えた6つのタイミングで実施。血液浄化センターは患者接触機会が多いため使用量が多く、手術室などは患者接触機会が少ないため使用量が少なかったことが報告されました。所持率は導入直後は高かったが徐々に低下し、再周知後に上昇する傾向が見られました。
O-4: 臨床工学技士の知名度向上と職業理解に関する考察(福田 里香)
東海医療科学専門学校の福田氏らは、臨床工学技士の知名度向上と職業理解促進に関する研究を報告しました。臨床工学技士養成校の学生を対象にアンケート調査を実施した結果、学生は学校関連よりも親族から情報を得る傾向が強く、志望動機は「医療職に就きたい」という広範な理由が多いことがわかりました。また、進路相談は親や担任に行うことが多いものの、担任の多くは臨床工学技士について十分に認知していないという課題が明らかになりました。これらの課題に対し、高校の担任や進路指導者への職業理解促進、SNSを活用した情報発信が有効と考察。教育機関と医療機関が連携し、効果的なキャリア教育を実施する必要性を強調する結論となっています。
手術・内視鏡部門
八瀬 文克(愛知県がんセンター)
セッション概要
手術室における排煙装置運用の改善、鏡下手術におけるスコープオペレータ業務への臨床工学技士の参入、手術室での医療DXの取り組み、内視鏡スコープの洗浄評価など、手術・内視鏡領域での臨床工学技士の専門性と貢献を示す実践報告が行われます。
O-5: 当院における排煙装置運用上の問題点改善に向けた活動(石川 裕亮)
刈谷豊田総合病院の石川氏らは、サージカルスモーク対策における排煙装置の運用改善について報告しました。サージカルスモークには発がん性物質や細菌、ウイルスなどの有害物質が含まれており、健康被害リスクがあります。採用している2機種の排煙装置の各設定値での実際の流量を測定し、排煙装置に求められる30L/min以上の流量を得るには80〜100%設定が必要であることが判明しました。また、測定した吸引器の流量も30L/min以上であったことから、基準を満たしていることが確認できました。サージカルスモーク対策には適切な流量設定での排煙装置使用が有用ですが、排煙装置導入前の施設においては吸引器を用いる代替案も考慮できると結論づけています。
O-6: 当院の鏡下手術におけるスコープオペレータ業務への参入(栗原 英宣)
一宮市立市民病院の栗原氏らは、臨床工学技士(CE)のスコープオペレータ業務への参入について報告しました。医師の働き方改革関連法施行に伴うタスク・シフト/シェアの推進、そして臨床工学技士法改正により「鏡視下手術における内視鏡カメラの保持や視野確保のためのカメラ操作」が新たな業務として追加されたことを背景に、外科医からの打診を受けて本業務を開始しました。初期段階として腹腔鏡下胆嚢摘出術のみに限定し、2024年5月1日~12月31日の期間で13件を実施。課題としては、新規業務に伴う増員ができていないため人員配置が困難な点と、研修医教育機関であるため実施機会が限られCEの教育や力量維持が困難である点が挙げられています。
O-7: 手術室から医療DXへアプローチする-臨床工学技士の視点より-(佐々木 拓海)
名古屋市立大学病院の佐々木氏らは、手術室における医療DX(Digital Transformation)の取り組みについて報告しました。同院では手術室マネジメントシステム「Torin/T-DOC」を導入し、情報管理・滅菌物管理・情報分析が可能になりました。CEはこのシステムの情報分析機能を主に担当し、各手術室や機器保管場所にゲートウェイを設置し、対象機器にビーコンを取り付ける作業を進めました。2024年9月の運用開始以降、データ蓄積を継続しており、現時点では電気メスと超音波手術機の稼働時間が多く、超音波吸引器の稼働時間が少ないという結果が得られています。今後は同種機器の個々の稼働状況を分析し、機器選定の参考にしていく予定です。
O-8: 当院における洗浄ブラシの選択と洗浄評価の検討(吉田 汐里)
公立陶生病院の吉田氏らは、内視鏡スコープの洗浄ブラシ選択と洗浄評価について検討した結果を報告しました。内視鏡スコープはセミクリティカルに分類され高水準消毒が必須ですが、消毒前の用手洗浄も交差感染防止に重要な工程です。ボストン・サイエンティフィック社製HedgeHogとパイオラックス社製新洗組の2種類の洗浄ブラシによる用手洗浄後のATP値を比較した結果、新洗組の方が洗浄効果が高いことが示されました。また、用手洗浄後と自動洗浄消毒後のATP値は相関があり、ATP測定のタイミングは自動洗浄消毒後でも支障がないと考察しています。本研究を通じて内視鏡洗浄評価に関する新たな知見を得ることができたと結論づけています。
Best Presentation Award(BPA)②
薗田 誠(日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院)
片岡 直人(葵セントラル病院)
セッション概要
循環器・血液浄化・内視鏡治療の最前線における臨床工学技士の実践的取り組みが紹介されます。心筋保護手技の評価、ICUにおける急性血液浄化業務の標準化、多機能スコープに対応するESD支援体制の工夫、超聴診器とAIを活用した透析患者の心疾患管理など、医療の質と安全性の向上に直結する注目度の高いセッションです。
AW-6: 当院心筋保護の理想と現実(堀口 敦史)
公立陶生病院の堀口氏らは、2024年9月に策定された「開心術中心筋保護法の選択および実践のガイドライン」を背景に、自施設の心筋保護法について後方視的検討を行いました。当院では10℃のintermittent cold blood cardioplegiaを使用しており、2021年1月から2024年12月までの人工心肺使用開心術でterminal warm blood cardioplegiaを実施した121例を対象としています。大動脈遮断解除後の除細動施行群と非除細動群を比較した結果、初回ICBC時間、初回ICBC量、総ICBC量、KCL投与量、Mg投与量の5項目で有意差が認められ、除細動施行の有無が心筋保護の影響を受けていることが示唆されました。心筋保護プロトコルは代々受け継がれてきたものでしたが、今回のガイドライン発行を機に現状を把握でき、今後は最良の心筋保護方法選択のために関係各科と協議する必要性を認識したとの結論でした。
AW-7: 当院における急性血液浄化業務に対する標準化への取り組み(渥美 誠也)
愛知医科大学病院の渥美氏らは、ICUにおける急性血液浄化業務の標準化への取り組みを報告しました。同院のICUは救急患者管理のEICUと周術期管理のGICUの2部門で構成され、管理科の違いから運用方針も異なり、特に日常的にICU業務に関与するCEと当直帯のみ関与するCEで手技の差異が生じる問題がありました。標準化のために、各診療科部長と協議を重ね、各ICUの「血液浄化療法初期設定」を作成し、「ACE.Medistation」を用いた治療記録管理とHISサーバ連携を実施しました。業務の標準化により業務の明確化が進み、経験年数の浅いCEも含めて円滑な対応が可能になりました。また統一フォーマットによる記録の標準化も業務効率化に寄与したとのことです。
AW-8: ESDにおけるCEの関わりと工夫~名古屋大学病院流~(北野 貴成)
名古屋大学医学部附属病院の北野氏らは、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)におけるCEの関わりと工夫について報告しました。内視鏡治療の発展に伴い、多機能スコープやデバイスの増加により、これらに熟知したCEの介入が安全性向上に大きく寄与するとの視点からの取り組みです。ESDに介助するCEは事前に検査レポートを確認し、医師と治療ストラテジーを共有した上で機器選定や高周波装置の設定を行っています。特にESDでは高周波装置の微細な設定が重要なため、CEの知識を交えて医師とディスカッションしています。CEの介入により、患者にオーダーメイドの治療提供が可能となり、各職種が専門性を持ってチームで治療に臨める体制が構築されました。
AW-9: 透析患者の心疾患管理~超聴診器の有用性 大動脈弁狭窄症を中心に~(奥山 翔)
大雄会第一病院の奥山氏らは、透析患者の心疾患管理における超聴診器の有用性を検討しました。多くの透析施設では心エコー検査は年1回であるため、簡易的検査である超聴診器を用いて心負荷・心雑音を評価し、心疾患の早期発見につなげる取り組みです。維持透析患者63名の透析治療前後に超聴診器で測定し、データはクラウドにアップロードしてAIによる判定を実施しました。結果として、心エコーで大動脈弁狭窄症(AS)診断されている患者は、超聴診器のAI判定でも同様の結果でした。透析後の方がASに対する精度が高い結果でしたが、業務効率上は測定のタイミングは柔軟に設定可能と考察されています。今後は患者背景を考慮した詳細検討により、超聴診器のさらなる活用性を模索するとのことでした。
循環・呼吸・その他
長瀬 弘行(一宮市立市民病院)
セッション概要
アブレーション業務における使用済みカテーテルの回収導入、CIEDs患者のMRI撮像への取り組み、Heart Logic Indexによる心不全増悪予測、人工呼吸器非同調の検出と呼吸管理など、循環器・呼吸器領域に関する幅広いテーマが取り上げられます。
O-9: アブレーション業務における医療材料の回収を導入して(羽田 響)
刈谷豊田総合病院の羽田氏らは、アブレーション業務における使用済みカテーテルの回収導入について報告しました。医療廃棄物は年間約30万トンに達しており、2017年頃から使用済みカテーテルの回収が開始され、その後単回医療機器再製造品(R-SUD)の販売も始まりました。導入にあたり、回収可能材料の把握と予想収益・作業時間の算出を行い、メリットを確認。収益はアブレーション治療12件/月で30,750円、作業時間は約5分/回で、人件費差引後の最終利益は約27,750円/月となりました。また医療廃棄物は年間約42kgの削減が見込まれ、環境保全や処理費用削減にも貢献しています。
O-10: CIEDs患者のオフラベルMRI撮像当院の取り組み(有竹 大地)
愛知厚生連海南病院の有竹氏らは、植込み型心臓電子デバイス(CIEDs)患者のMRI撮像への取り組みを報告しました。2024年1月に3学会合同のステートメントが改訂され、MRI撮像に対する新たな方向性が示されたことを受けての対応です。当院のMRI撮像は2023年度13,832件、2024年度13,812件で、うちMRI対応デバイスの撮像は2023年度86件、2024年度106件でした。ステートメント改訂に伴い、循環器内科、放射線診断科、臨床工学室、顧問弁護士との協議により、クラスIIaまで撮像可能とし、夜間・緊急対応は不可、不整脈専門医外来で診察後にMRI撮像を行う方針に決定しました。
O-11: 心不全増悪の予測にHeart Logic Indexが有用であった一例(上木 明依)
藤田医科大学ばんたね病院の上木氏らは、心不全増悪予測におけるHeart Logic Index(HLI)の有用性について症例報告しました。HLIは胸郭インピーダンス、呼吸数、心拍数などに心音とアクティビティレベルを加えたデータから算出され、心不全イベントの早期発見に有用とされています。80歳代男性のCRT-D植込み患者で、横隔神経刺激のため右室単独ペーシングとなった後、HLI上昇からアラート受信15日後に心不全入院。計4回の心不全入院すべてで入院前にHLIの上昇を認め、治療により下降しました。特にHLIがリカバリー閾値まで低下せずに退院したケースでは再入院までの期間が短い傾向がみられました。
O-12: PAV™+が人工呼吸器非同調の検出と呼吸管理に有用であった1例(中井 悠二)
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院の中井氏らは、Puritan Bennett™980の呼吸モードPAV™+が非同調検出と呼吸管理に有用だった症例を報告しました。50歳代男性のBrugada症候群患者で、PC SIMV(PS)モードで管理中、リバーストリガー様の波形を認めました。PAV™+モードに変更し観察すると、自発呼吸トリガー回数に変化はないものの、その半数以上が吸気努力のないトリガーであることが判明。心拍動によるオートトリガーとリバーストリガーの併発と判断し、PAV™+で呼吸管理を継続しました。IABPの離脱とともにオートトリガーが改善し、PC SIMV(PS)モードに変更して抜管に至りました。