2025年11月〜12月期 中央社会保険医療協議会(中医協)における審議動向

🚨 構造改革の核心:イノベーションと持続可能性の両立

2025年11月から12月にかけて中央社会保険医療協議会(中医協)で集中的に審議された内容は、2026年度診療報酬改定を通じて、日本の医療保険制度が構造的転換を遂げることを示しています。

中心的な課題は、「イノベーションの推進」「国民皆保険の持続可能性」という二つの至上命題をいかに両立させるかという点です。

この課題に対する解決策として、特許切れの長期収載品の評価を抜本的に見直し、捻出された財源を革新的な新薬の評価や医療従事者の賃上げに再配分する「スクラップ・アンド・ビルド(傾斜配分)」の強化が明確に打ち出されました。

🔍 1ヶ月間の審議で浮き彫りになった主要な争点と方向性

  1. 薬価制度の抜本改革: 特許切れ医薬品の薬価を早期に引き下げる「G1ルール」の適用前倒し。真のイノベーションを評価する「アメとムチ」構造の強化。
  2. 長期収載品の患者負担増: 後発品との価格差を患者が自己負担する「選定療養」の負担割合を「全額(1分の1)」まで引き上げる案が焦点。
  3. 賃上げ支援策の実効性確保: 2024年度導入の「ベースアップ評価料」の複雑さを解消し、運用の簡素化と確実な賃上げを両立させる制度への修正。

💰 2026年度診療報酬改定の基本構造:対立と収斂

2025年12月10日の中医協総会では、次期改定の基本方針をめぐる診療側支払側の主張の対立軸が改めて明確になりました。

🆚 診療側と支払側の主張

👨‍⚕️ 診療側の主張(大幅なプラス改定)

日本医師会に代表される診療側は、物価高騰と賃金上昇による経営圧迫を主張し、「大幅なプラス改定」を強く要望。

特に、人材確保のための賃上げ原資として、「基本診療料」の底上げ(初診料や入院基本料)が不可欠であると訴えています。

💼 支払側の主張(メリハリある対応)

健康保険組合連合会などの支払側は、現役世代の保険料負担の限界を強調し、「適正化とセットでのメリハリある対応」を要求。

賃上げ原資は、保険料引き上げではなく、長期収載品など「制度内の非効率性の排除」で賄うべきという姿勢を崩していません。

📅 審議スケジュールの加速(2025年)

開催日会議区分主要議題
11月19日総会入院、薬価制度改革案提示
12月3日薬価専門部会・総会薬価制度改革詳細議論
12月5日総会賃上げ(ベースアップ評価料)の検証
12月17日総会長期収載品の選定療養
12月19日(予定)総会意見書とりまとめ(大臣提出へ)

🔬 薬価制度の抜本改革:イノベーション推進と財源捻出

✨ 革新的新薬の評価強化(アメ)

  • 新薬創出等加算の再編: 同加算を「価格維持の仕組み」として明確に再位置づけ。これにより、日本市場がイノベーションを評価する市場であることを国際的にアピールする狙いがある。
  • 市場拡大再算定の緩和: 小児や希少疾病用医薬品への効能追加による市場拡大は、原則として再算定の対象外とし、「イノベーションの罰則」とならないよう配慮する。

🔥 長期収載品からの財源シフト強化(ムチ)

特許切れ医薬品の薬価引き下げルール(G1ルール)の適用を5年前倒しする案が提示されました。

これは、製薬企業に対し「長期収載品で長く収益を上げる」という従来のビジネスモデルからの脱却を強力に促すものであり、改定の主要な財源捻出の柱となります。

影響: 速やかな後発品への移行が促進され、市場の構造が大きく変化する見込み。

🚨 最大の争点:長期収載品の選定療養と患者負担増

現行制度(価格差の「4分の1」負担)は後発品使用割合を90%以上に高める一定の効果を上げましたが、中医協ではさらなる負担増が議論の焦点となっています。

💥 負担割合「全額」引き上げ論の圧力

厚生労働省は、現行の「4分の1」から「2分の1」「4分の3」、または「全額(1分の1)」までの引き上げ案を提示しました。

支払側(健保連など)は、後発品という標準的な選択肢があるにもかかわらず先発品を選ぶ場合、差額は全額個人が負担すべきと強く主張しています。

「あえて先発品を選ぶのは嗜好品の領域であり、公的保険ではなく全額個人が負担すべき。」(支払側委員)

懸念される影響: 実現すれば、長期収載品市場が実質的に自費市場化する可能性があります。

⚠️ 制度強化の前提となる課題

  • 後発品の安定供給が依然として課題であり、在庫がないために先発品を選ばざるを得ないケース(選定療養の対象外とする運用)の徹底が必須。
  • 急激な負担増が、患者の受診抑制につながるリスクへの慎重な検討。

💼 医療従事者の賃上げ:実効性確保に向けた制度修正

2024年度に導入された「ベースアップ評価料」は、「届出が煩雑なため」届出率が低いという課題が浮き彫りになり、次期改定での修正が求められています。

✅ 実効性確保に向けた方向性

支払側は賃上げの透明性を要求し、診療側は基本診療料の引き上げを求める中、議論は「実効性」を最優先する形で収斂しています。

  • 簡素化の徹底: 提出書類の削減や電子化による事務負担の大幅軽減。
  • 制度の整理・統合: 入院と外来で分かれている評価料の枠組みを整理し、分かりやすい恒久的な制度へと再構築する方向性が濃厚。

📈 今後の展望と2026年度改定のシナリオ

2026年度診療報酬改定は、過去の非効率性を徹底的に削減し、その財源を未来の医療(新薬、人材)へ投資するという明確な意思のもとで設計が進められています。

予測される改定の全体像

  • 財源構造の「スクラップ・アンド・ビルド」徹底: 長期収載品市場から吸収した財源を、革新的新薬や人材(賃上げ)に再投資する構造が確立する。
  • 患者の受療行動の不可逆的な変容: 選定療養における患者負担が引き上げられた場合、後発品の選択が経済合理性から必須となり、長期収載品市場は急速に縮小する。
  • 賃上げ支援制度の定着: ベースアップ評価料は複雑さを解消する形で修正され、医療界の賃金水準を底上げする恒久的な制度として定着する可能性が高い。

✅ 結論:2026年度改定は、日本の医療保険制度が持続可能性と質の向上を両立させるための、正念場となる改革となるでしょう。